1.マスターコピーが一つあり、しかも遷移状態にあると仮定したSINE進化の集団遺伝学モデルを理論的に解析した。各塩基サイトにおける遺伝子頻度の最大値、ホモ接合頻度、マスターコピーに起こった突然変異の数を反映する量である「Shared difference」の数等の統計量について、その平均・分散を計算機シミュレーション等を用いて求めた。その結果すべての量の平均値は増幅期間の単調関数であることが分かった。このためこれらの統計量は増幅期間の推定に使うことができるが、その標本分散はかなり大きい。これらの結果を用いて霊長類のアル配列のうち、Sbサブファミリーの配列データを解析した。最初に増幅期間をホモザイゴシティとその分散から推定したところ、この期間は増幅終了後の期間に比べて非常に短いことが分かった。しかしながら、観測された「Shared difference」の数はマスターコピーモデルから予測される値の倍以上であった。この不一致を解決するモデルとして複数のマスターコピーを持つモデルなどについて議論した。 2.キイロショウジョウバエとキイロショウジョウジョウバエ種亜群の他の数種からそれぞれ系統を選び、Iエレメントをクローニングして塩基配列を決定した。その結果(1)キイロショウジョウバエのエレメントは、染色体上で動原体付近にあるものとアームにあるものの二グループに分けられる。(2)動原体付近のグループではエレメント間に多量の塩基置換が蓄積しており、比較的古い時期に挿入が起こったと考えられる。(3)アームのグループの中では変異は少なく、しかもオナジショウジョウバエのエレメトと同じ配列も見つかった。これらのことからキイロショウジョウジョウバエではIエレメントの侵入が種の分岐以前と分岐以降二度起こり、しかも二度目の侵入は比較的最近オナジショウジョウバエからの水平感染によるものと考えられる。
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