SINEやLINE等のレトロポゾンの進化機構を知る目的で、LINEの一つであるショウジョウバエにおけるIエレメントについて、まずキイロショウジョウバエとキイロショウジョウバエ種亜群の他の数種からそれぞれ系統でクローニングを行いその配列を調べた。その結果、キイロショウジョウバエではIエレメントの侵入が種の分岐以前と分岐以降二度起こり、しかも二度目の侵入は比較的最近オナジショウジョウバエからの水平感染によるものであることがわかった。より広い種でのIエレメントの進化を知るために、montium種亜群5種、鱗翅目のカイコなど、計9種についてもIエレメントに相同な配列の構造、染色体上の分布等を決定した。それらはキイロショウジョウバエの完全型のエレメントと塩基配列はかなり異なっていたが、gagや逆転写酵素の領域、およびTAAリピートが保存されているものもみられた。一般にIエレメント相同配列は染色体腕上と染色中心に存在し、とくに染色中心に多くみられる。その起源はかなり古いと考えられる。理論的研究としてマスターコピーがあると仮定したレトロポゾン進化の集団遺伝学的モデルを解析した。各塩基サイトにおける遺伝子頻度の最大値、ホモ接合頻度、マスターコピーに起こった突然変異の数を反映する量である「Shared difference」の数等の統計量について、その平均・分散を計算機シミュレーション等を用いて求めた。これらの統計量を用いて霊長類のSINE、アル配列のSbサブファミリーの配列データを解析した。増幅期間は増幅終了後の期間に比べて非常に短いことが分かったが、観測された「Shared difference」の数はマスターコピーモデルから予測される値の倍以上であった。この不一致を解決するモデルとして複数のマスターコピーを持つモデルや自然淘汰を考慮したモデルについて考察した。
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