イネの低温誘導性遺伝子のひとつとして分離されたlip19遺伝子はbZIP蛋白質をコードしていることが明らかとなり、低温処理により転写因子が誘導される可能性が示唆された。ところが種々の検討にもかかわらず、lip19遺伝子産物であるLIP19蛋白質のDNA結合性をこれまでのところ証明できていない。lip19遺伝子がトウモロコシOBF1遺伝子に類似している知見より、トウモロコシのlip19相同遺伝子がOBF1遺伝子そのものか否かを明らかにする為に、低温処理トウモロコシ植物体よりlip19プローブに反応する新規なcDNAクローンを得てmlip15と命名した。この遺伝子の発現はイネlip19と同様低温により誘起される。種々のストレス処理の影響を検討したところ、mlip15は塩、アブシジン酸処理で低温と同様に誘導されるが、乾燥、嫌気、熱処理では誘導されないこと、葉よりも根で転写物の蓄積が強いことが示された。この遺伝子産物mLIP15は、当然のことながらbZIP蛋白質であり、LIP19との間には約70%の相同性が見られた。大腸菌の発現系およびウサギ網状赤血球無細胞翻訳系で作ったmLIP15蛋白質は、OBF1蛋白質が結合するocs配列(オクトピン合成酵素遺伝子のエンハンサー領域に存在するシス配列)には弱くしか結合しないが、いずれも植物のシス配列として同定されているヘキサマー配列(5'-ACGTCA-3')とG-box配列(5'-CACGTG-3')に強く結合すること、さらにこの結合が特異的であることを示した。したがって、DNA認識配列においてもmLIP15はOBF1とは異なることが明らかである。同時にこの結果は、mLIP15が低温誘導性の転写因子であることを強く支持する。イネおよびトウモロコシではアルコール脱水素酵素遺伝子(Adh1)低温で誘導されることが報告されているが、mLIP15がAdh1プロモーターに結合することも明らかとした。現在、この結合の生物学的意義について検討を進めている。
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