イネの低温誘導性遺伝子のひとつとして分離されたlip19遺伝子はbZIP蛋白質をコードしていることが明らかとなり、低温処理によって転写因子が誘導される可能性が示唆された。トウモロコシよりlip19の相同遺伝子であるmlip15を単離した。この遺伝子の発現は低温処理、塩ストレスそしてアブシジン酸処理で誘導される。一方乾燥、嫌気および熱ショックでは誘導されない事が判明した。遺伝子産物であるmLIP15が植物のシス配列として同定されているヘキサマー配列やG-ボックス配列に結合すること、さらにはイネやトウモロコシで低温誘導性であることが知られているアルコール脱水素酵素遺伝子1のプロモーターの15bp断片に結合することも昨年度報告した。 本年度は以下の事を明らかにした。 (1)mLIP15の標的遺伝子の一つとして脂肪酸不飽和化酵素遺伝子が考えられた。シロイヌナズナFAD7をプローブにしてトウモロコシより2種の上記cDNA遺伝子を単離し、FAD7とFAD8と名付けた。前者は常温で強く発現しており、後者は低温で誘導される。それぞれのゲノムクローンを単離した。ただし後者のゲノムクローンは5′上流域を欠いている。 (2)低温処理によりmlip15遺伝子が誘導されるよりも早く、カルシウム依存性蛋白質リン酸化酵素遺伝子(ZmCDPK1)が誘導されることを示した。今後完全長のcDNAを得て、大腸菌で酵素蛋白質を発現させ、ZmCDPK1がmLIP15蛋白質をリン酸化するかどうか検討して行きたい。 (3)低温処理したトウモロコシの核抽出液にmLIP15蛋白質と[7^<-32>P]ATPを加えると、2種の蛋白質が特異的にリン酸化を受けることを明らかにした。この反応はmLIP15蛋白質の存在に依存しており、また常温で生育した植物体からの核抽出液では起こらないことも確認した。この事実はmLIP15の機能を考えるうえで重要であると思われる。
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