研究概要 |
昨年度までの研究成績をまとめると以下のようになる。 (1)トウモロコシ低温誘導性遺伝子mliP15の種々のストレスに対する発現様式を明らかにした。 (2)遺伝子産物(mLIP15)のhexamer配列やG-box配列に対するDNA結合活性を示した。さらに、mLIP15が低温誘導性のAdh1遺伝子のプロモーターに試験管内で結合することを明らかにした。 (3)タバコのcDNAホモログtbz17を単離した。tbz17の発現も低温により誘導される。このことは双子葉植物にもbZIP型のDNA結合蛋白質をコードする低温誘導性遺伝子が存在することを示す。 (4)タバコTBZ17蛋白質とトウモロコシmLIP15蛋白質のDNA結合特性は極めて類似していること、通常のbZIP蛋白質よりも長い塩基配列を認識することが示唆された。 今年度は、 (1)トウモロコシよりカルシウム依存性プロテイン・キナーゼ遺伝子(ZmCDPKl)を単離した。低温によるZmCDPK1転写物の蓄積が、mlip15転写物の蓄積よりも早く起こることが判明した。 (2)蛋白質合成阻害剤として知られるシクロヘキシミドが、極めて低濃度でZmCDPK1,mlip15およびAdh1の転写物のレベルを高めた。しかしカルコン合成酵素遺伝子は低温でのみ発現した。他の薬剤特異性を調べたところ、アニソマイシンがシクロヘキシミドと同様な効果を示したが、さらに薬剤は上記遺伝子群の発現になんら影響を与えなかった。 (3)カルシウムキレーターであるBAPTA(2mM)を用いた実験より、低温およびシクロヘキシミドによる上述遺伝子群の転写物の蓄積にはカルシウムイオンの関与が示唆された。 (4)タバコtbz17遺伝子を構成的に発現しているトランスジェニックタバコはいずれも対照のタバコにくらべて、小型化していた等を、明らかにした。 上記の結果に基づき、低温がトウモロコシ植物体に誘起するシグナル伝達系は少なくとも2つあり、そのうちの1つは上記2種の薬剤によっても誘起される、との作業仮説を提出した。その際にカルシウムイオンが関与していることを示唆した。
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