本研究の目的は、アクチビンBによって誘起される日本産ウナギの精子形成の分子機構を明らかにすることである。まず、哺乳類のCHO細胞を用いてリコンビナントウナギアクチビンBを作成し、これを用いてアクチビンBの精子形成誘起能を器官培養系により解析した。その結果、ウナギアクチビンBはA型精原細胞に細胞分裂を起こさせ、B型精原細胞に移行させることがわかった。しかし、このような処理ではB型精原細胞が減数分裂を開始して精母細胞に分化することはなかった。これらの結果より、アクチビンB増殖因子であると考えられ、精原細胞から精母細胞への分化(減数分裂への移行)は他の因子が必要であると考えられる。この因子(減数分裂開始因子)の単離し、精製することが今後の最重要研究課題である。 アクチビンBの情報伝達機構を明らかにする目的で、3種類のアクチビンI型受容体及び1種類のアクチビンII型受容体をコードするcDNAをクローニングした。I型受容体がリガンドと結合するためにはII型受容体の存在が必要であるが、II型は単独でリガンドとの結合が可能であることがわかった。また、これらの遺伝子はGTH処理前の精巣(精原細胞)ですでに発現していた。これらの結果から、アクチビンBは直接精原細胞に作用し、mitosisを誘起することが結論された。次に、種々の細胞分裂制御因子のcDNAをクローニングし、それらのいくつかについて特異的抗体を作成するとともに、精子形成開始時における発現の変動を調べた。その結果、ホルモンによる精子形成開始の誘起は、G1サイクリンE1のmRNAの発現が精原細胞で増加し、その結果として精原細胞のS期への進行が起こり、その後A2、B1、B2の発現によって精原細胞の分裂、増殖が起こると考えられる。次いで、減数分裂期にはいるとA1が重要な役割を果たすと推察される。
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