ホヤは遷移金属のバナジウムを高濃度かつ高選択的に濃縮している。しかし、このように極端な濃度勾配に逆らって金属元素を濃縮する際に共役するエネルギー機構の解明はまだ手掛けられていない。 最近、われわれは電子スピン共鳴法と微小pH電極法さらにラマン分光法を駆使して、バナドサイトの液胞のpHが1.9〜2.4という強い硫酸酸性を示し、そこではバナジウムが3価に還元されて濃縮されていることを明らかにした。またバナドサイトの液胞膜にはH^+-ATPaseが存在することを細胞免疫学的に証明した。 そこで、バナジウムの濃縮がH^+-ATPaseによって引き起こされたプロトンの濃度勾配と共役しているか否かを検討するとともに、多くのイオンの中からバナジウムが選択的に濃縮される謎を解くために、バナジウム結合タンパク質の特異的金属結合部位を解明することを目標として研究を進めた。 本年度はスジキレボヤのバナジウム濃縮細胞から分離した膜断片を、可溶化することに成功した。それをセルロースカラムで分画し、バナジウムと特異的に結合するタンパク質を抽出した。現在、金属イオンを外したいわゆるアポタンパク質の作製を検討中である。バナジウム濃縮細胞から得た膜断片の可溶化はきわめて困難な作業であった。バナジウム濃縮細胞はその液胞がpH2の硫酸酸性で、バナジウムの濃度が350mMかつ硫酸の濃度は500mMに達する特殊な細胞である。このことは通常の膜とは異なる組成を有するものと考えられる。今回、この膜を可溶化できたことは、タンパク質レベルでの金属イオンとの結合能を検討するための条件をクリアしたと評価できる。
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