昆虫の体表には形態的に明確に異なる3種類(弦状感覚子、鐘状感覚子、張力受容器)の機械受容器が分布するが、それらの刺激受容機構はほとんど解明されていない。本研究でこの課題の解明の手がかりを得る目的で形態学的および生理学的実験を行い以下の知見を得た。 1)弦状感覚子の感覚繊毛は鞭状で、ダイニンの腕のある軸糸微小管を含み運動繊毛に類似する構造を持っていた。機械刺激状態と非刺激状態とで急速凍結した試料を比較し、刺激状態では感覚繊毛の屈曲が著しいことを見い出した。この結果は、弦状感覚子においては、機械刺激に対応して繊毛が能動的、あるいは受動的に動き、その動きが繊毛基部の機械-電気変換部位に伝えられる可能性を示すものである。線毛基部には特殊化した膜の裏打ち構造が認められたが、これが受容器電位発生に関わる可能性が考えられる。これらの知見は弦状感覚子が振動刺激に対してより感受性を示すとする従来の生理学的報告を形態学的に支持するものである。 2)鐘状感覚子の感覚繊毛の先端部には管状体とよばれる微小管の密な集合が含まれることが知られていた。本研究では、管状体ではアクチンフィラメントと微小管が規則的な3次元配置をすることを明らかにした。コルヒチンあるいはビンブラスチンにより、機械刺激に対する応答が減少することからこの感覚子の受容部は繊毛の先端に局在し、管状体の機械的変位が、受容器電位発生に関わる可能性を示した。 3)張力受容器の受容細胞の受容部は樹状突起からなる。受容膜と予想される部位にはアクチンフィラメントの裏打ちが特異的に観察された。しかしながら、受容機構との関連は明らかにできなかった。
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