研究概要 |
トウモロコシやペチュニアなどで報告された雄性不稔ミトコンドリア遺伝子は、互いに塩基配列が全く異なっている。しかし、これまでに同定された雄性不稔遺伝子を比較すると、(1)いずれもミトコンドリアゲノムの構造変異域の近くに存在し、(2)正常株とは異なる固有の転写産物を生ずること、また(3)Rf遺伝子の作用によって転写レベルもしくは翻訳レベルで発現が変化するなどの、共通の特徴が見出される。 以上の条件を満たす領域を、テンサイミトコンドリアゲノムより選び出すために、先ず正常株と細胞質雄性不稔株のミトコンドリアゲノム物理地図の比較解析を行った。その結果、転写産物(緑葉由来)に差異のみられる4種の変異遺伝子(coxI,coxII,atpA,rps3)と2種のORF(orf324,orf1)を特定した。 次に花蕾からtotal RNAを抽出し、ノーザンブロット解析を試みた。解析データの示すすところによれば、正常株と細胞質雄性不稔株では上記6種の遺伝子の転写パターンはいずれも質的には緑葉由来のRNAのパターンと区別できなかった。一方、稔性回復株(細胞質型は不稔型で、Rf遺伝子はヘテロ接合型)においては、coxIを除く5遺伝子の発現パターンは細胞質雄性不稔株の場合と変わらないが、coxIの転写パターンは細胞質雄性不稔株のパターンとは明らかに異なり、むしろ正常株coxIのパターンと類似している。興味深いことに、稔性回復株の緑葉ではこの様なcoxI転写パターンの変化は観察されない。 本研究を通じて、coxI遺伝子は転写レベルでRf遺伝子と相互作用を示し、しかもその相互作用は花蕾組織に特異的に現れることが判った。今後はcoxIに関して、翻訳産物の特徴づけや葯組織における発現解析を集中的に進め、テンサイ細胞質雄不稔性の機構を解明しなければならない。
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