本年度はCO_2濃度制御をした植物育成用グロースキャビネットを用い、昼/夜温度28/23℃、CO_2濃度350ppm(標準区)または700ppm(高CO_2区)として、水稲(品種 日本晴または短銀坊主)を発芽から成熟期まで土耕栽培した。その結果、(1)高CO_2区では栄養生長期における乾物生産の著しい増大が認められた。この場合、草丈の伸長と分げつ発生の促進が伴っていた。光合成と呼吸を昼夜連続して測定したところ、光合成は高CO_2濃度により40%程度促進され、これに応じて夜間の呼吸も大きくなり、明期(昼12時間)の光合成総量と明期に続く暗期(夜12時間)の呼吸総量の間には密接な相関が認められたが、直線回帰係数はCO_2濃度処理に拘らずほぼ同一であった。(2)標準区および高CO_2区で発育した葉の形態を透過型電子顕微鏡によって観察したところ、高CO_2区では葉肉細胞および維管束鞘細胞の両方で葉緑体中に多くの大きなデンプン粒が形成された。これは、高CO_2濃度に対する光合成の順化を示すものである。そこで、炭水化物代謝を支えるリンの濃度を培養液で制御したが、リンが十分にある場合、却ってデンプン蓄積が増した。この現象は水稲の生育段階とソース/シンク関係で説明ができた。また、(3)培養液の窒素濃度を変えて水稲を栽培した。生育は標準濃度の4倍程度まで、窒素濃度上昇に伴って促進され、しかも、高CO_2区でその促進は大きかった。収量は窒素が2倍程度で最大となったが、玄米の無機成分含有率を調査したところ、高CO_2区で生育を遂げた水稲は玄米により多くの窒素を含み、マグネシウムの濃度は逆に低下する傾向が見られた。これは将来、大気中のCO_2濃度が上昇した場合のコメの品質低下を示唆している。これらの成果は、日本作物学会や日本生物環境調節学会にて順次報告する予定である。
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