本研究は、将来に予測される地球環境の変化を見据えた作物生産技術開発の基礎として、平成6〜8年度の3年間にわたり、筑波大学および明治大学において遂行したものである。食糧として世界人口の約半数を扶養するイネを研究材料として用い、その生産に関わる生理生態的諸形質(光合成、呼吸、同化産物の分配、分げつ、葉面生長、収量構成要素、養分吸収等)が、現在変化しつつある主要環境要因(CO_2濃度[350vs.700ppm]、温度)と土壌養分との組み合わせにどのように反応するのかを、制御環境下での実験を通じて明らかにしようとしたものである。 まず、地球環境変化に伴なう植物の生理生態的な反応についてレビューを行い、問題の所在を明らかにした。次いで、葉身における葉緑体の構造が、高CO_2下でデンプン過剰蓄積のために変形することを可視的に明らかにした。また、CO_2濃度に対する光合成の反応は、他の環境要因(光および葉面飽差)によって影響を受け、強光とやや高温が高CO_2条件の良効果を助長することを、酵素反応速度論的に明らかにした。さらに、高CO_2下での光合成と呼吸の推移について、昼夜連続した測定を行った結果、少なくとも栄養生長期では、促進された光合成は呼吸と正の密接な相関を有し、それが高CO_2下での乾物生産の増加につながることを知った。一方、高CO_2下での乾物生産はリンや窒素等の影響を強く受け、高CO_2が乾物生産における無機養分利用効率を高めることを明らかにした。また、収量形成過程および米の品質に関わる分析の結果、高CO_2は1株穂数と1穂穎花数を増加させるが、米の品質を悪化させる可能性があることを知った。以上の結果と、他で報告された研究成果とを対比しつつ、将来のイネ生産に関する論議を行った。
|