カキ果実の脱渋機構を再検討すると共に、細胞内での不溶化機構の解明のための実験系の確立のために以下のような調査を行った。 1.カキ果実をエタノール処理により脱渋した後、不溶化したタンニンの塩酸メタノールによる可溶化現象を調査した。樹上処理によって不溶化したタンニンは褐変反応がおこるまでは塩酸メタノールで可溶化するが、褐変反応が進行すると可溶化はおこらなかった。しかし、採取後にデシケーター内で脱渋した場合には、タンニンの褐変反応がおこらなくても可溶化せず、不溶化したタンニンには様々な段階のものが存在していた。 2.不溶化したタンニンを塩酸メタノールで可溶化した場合、そのタンニンの分子量は脱渋する以前にメタノールで抽出した場合の分子量よりも小さいことがゲル濾過クロマトグラフィーにより明確となった。さらに、脱渋する以前のタンニンを塩酸メタノールで抽出すると、その分子量はメタノールで抽出した場合よりも小さく、タンニンの化学構造におけるタンニン分子同士の水素結合の重要性が明らかとなった。 3.マイクロマニュピレータシステムを利用してタンニン細胞の機能を調査する方法を検討し、200〜300μmの果肉切片からタンニン細胞と柔細胞の細胞液を直接採取するための実験系を確立した.この方法で、成熟前のカキ果実のタンニン細胞から5〜7nl、柔細胞から約2nlの液胞液を集めることができた。 4.成熟前の果実から採取したタンニン細胞の液胞液中には10〜12%のタンニンと10〜13%の糖が含まれていた。一方、柔細胞の液胞中にはタンニンはほとんど認められなかったが、約20%の糖が含まれていた。また、柔細胞ではかなり高い割合でショ糖を含んでいるのに対して、タンニン細胞では糖組成に占めるショ糖の割合が少なく、グルコースが高い割合を占め、タンニン細胞の機能性を考える上で興味深い結果であった。
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