精子や精細胞の細胞内DNAは体細胞に含まれるDNA量の半分であるので、その存在は、細胞計測により容易に判定出来るものと考えられるが、家蚕においては、そのような観点からの追究は全く行われていない。そこで本年度は、精細胞の形成開始を支配する要因を解明するために、細胞計測により眠性の異なった家蚕における精細胞の形成開始時期を明らかにした。 まず、4眠蚕の精細胞は5齢1日目に出現し始めることが古くから明らかにされている。これをフローサイトメトリーでさらに詳しく確かめた。次に、ホルモン処理により4齢期間の長短を調節した場合、5齢幼虫における精細胞の出現時期がどう変化するかを調査した。JHにより5眠化した蚕(N_4)の精子細胞は、4眠中の幼虫及び食桑中の5齢幼虫では検出できなかった。幼虫が5回目の眠に入ると、精子細胞は急速に形成され始め、6齢起蚕ではかなりの精子細胞が蓄積していた。6齢期間は、4眠蚕の5齢期間と同じかむしろ長いにもかかわらず、眠中から精子細胞が形成され始めた。このため、5眠蚕個体に於ける精子細胞の形成開始には、ホルモンとか脱皮とかいった要因よりも孵化後の成育期間の方が大きく影響するように思われた。また、遺伝的な2眠蚕の精細胞の形成開始時期を調査した。遺伝的2眠蚕(mod)は、大半が3眠蚕となるが、一部の個体が2眠蚕となる系統である。2眠蚕個体の熟蚕においては精子細胞がそれほど多く蓄積していないので、2齢の盛食期以降、おそらく熟蚕になる少し前に精子細胞の形成が開始されたのであろうと思われる。早く熟蚕になった2眠蚕よりも遅れて熟蚕になった2眠蚕の方が、精子細胞の蓄積量が多くなっていた。このため、2眠蚕個体に於ける精子細胞の開始にも、ホルモンとか脱皮とかいった要因よりも孵化後の成育期間の方が大きく影響するように思われた。
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