研究概要 |
本年度は大きく分けて二つのイオン依存性輸送系について計画した。一つは一次的能動輸送系である液胞型H_+輸送性ATPase(V-ATPase)に関する研究で,もう一つは二次的能動輸送系であるカリウム依存性アミノ酸輸送担体に関する研究である。初年度から取り組んでいる後者のカリウム依存性アミノ酸輸送担体の物質分子としての解析については未だ有効な突破口を見い出せなかった。一方,前者についてはとりわけカイコ絹糸腺細胞のV-ATPaseに関して多くの知見を得ることができた。得られた成果は以下のとおりである。 (1)タバコスズメガの幼虫中腸のV-ATPaseに対するポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を用いてカイコ絹糸腺細胞のV-ATPaseのタンパク質分子としての同定を試みたところ,タバコスズメガと同じいくつかの構成サブユニットを検出することができた。つまり,組織が中腸と絹糸腺という全く生体内での機能が異なる組織であるにも拘わらず,同じ構造のV-ATPaseが存在していることがわかった。 (2)その構成サブユニットの一つ(13-kDaポリペプチド,サブユニットG)について,cDNAクローニングを行い,3つのクローンを得ることができた。 (3)得られたクローンについて,DNA塩基配列の解析を行ったところ,タンパク質翻訳領域ではほとんど同一のアミノ酸配列をコードしていることが明らかとなった。また,酵母細胞のそれとは50%レベルの相同性であった。 以上の結果から絹糸腺細胞でもV-ATPaseによって生体膜を介した電気化学的な駆動力が発生し,そのエネルギーを利用したアミノ酸輸送系が機能している可能性が出てきた。絹糸腺細胞はカイコ体液中のアミノ酸を利用して,莫大な絹タンパク質の合成と分泌を行っているので,おそらく組織外からアミノ酸を取り込むためにそこではイオン依存性アミノ酸輸送系が活発に機能していると推定される。絹糸腺細胞の系に取り組むことが,冒頭で述べた後者の課題(カリウム依存性アミノ酸輸送担体の解析)への新たな解決の糸口として浮上してきた。
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