A-ファクターおよび蛋白リン酸化による放線菌の二次代謝・形態分化の制御機構

1995 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06454073
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 堀之内 末治 東京大学, 農学部, 教授 (80143410)
• 研究分担者: 西山 真 東京大学, 生物生産工学研究センター, 助教授 (00208240)
• キーワード: 放線菌 / 自己調節因子 / 抗生物質 / シグナル伝達

研究概要

(1)A-ファクターレセプター遺伝子のクローニングと機能解析
^3HラベルしたA-ファクターとの結合を指標とし、S.griseusよりA-ファクターレセプターたんぱく質を精製し、遺伝子(arpA)をクローニングした。ArpAは276アミノ酸からなりN末端付近にヘリックスターンヘリックスのDNA結合領域を持っていて、原核生物にみられるリプレッサータイプの転写制御因子と高いホモロジーを示した。arpAの塩基配列をもとにS.coelicolor A3(2)から2つのarpA相同遺伝子をクローニングした。2つの遺伝子はそれぞれ216アミノ酸からなるORFをコードしていた。おのおのの遺伝子破壊株は、胞子形成は正常であるが色素生産に変化がみられた。
(2)A-ファクターシグナルをストレプトマイシン生合成遺伝子群に伝達する転写調節因子の精製
ストレプトマイシン生合成遺伝子群内のstrRはA-ファクター依存性転写因子(Adp)により転写活性化が起こることが分かっていた。ゲルシフトアッセイとその結合阻害実験からAdpの結合位置はstrR転写開始点から-256〜-285bpであることが明らかとなった。このAdpをゲルシフトアッセイを指標に精製したところ、ブチル、ヘパリン、DEAEカラム、DNAアフィニティービーズという精製スキームにより、最終的にSDS-PAGE上で40kDa付近に近接した二本のバンドを得た。
(3)抗生物質生産の調節に関与するチロシンフォスファターゼ遺伝子のクローニング
S.coelicolor A3(2)の染色体DNAをS.lividansにショットガンクローニングすることによって大量の色素性抗生物質アクチノロ-ジン生産を誘導する約6KbのDNA断片を取得した。サブクローニングにより、色素生産誘導活性をもつ領域を1.2kbにまで縮め、その断片の塩基配列を決定したところ、1.2kbの断片中に読み取り枠が2つ存在することが予測され、そのうちの1つは低分子量チロシンフォスファターゼと非常に高い相同性を示し、このORFが色素生産を誘導する遺伝子であると考えられた。また、E.coliを宿主に用いて大量発現を行い、in vitroにおいてフォスファターゼ活性を検出した。

研究成果

• [文献書誌] Sueharu Horinouchi: "Signal transduction via A-factor that controls antibiotic production and morphogenesis in Streptomyces." Proceedings of International Symposium on Functional Biomaterials. 88-98 (1995)
• [文献書誌] Sueharu Horinouchi: "Streptomyces species as boundary microorganisms: eucaryotic regulatory systems for secondary metabolism and morphological differentiation." Actinomycetol.9. 244-253 (1995)
• [文献書誌] Nobuaki Kudo: "Cloning and characterization of a gene involved in aerial mycelium formation in Streptomyces griseus." J.Bacteriol.177. 6401-6410 (1995)
• [文献書誌] Atsushi Matsumoto: "Involvement of a small ORF downstream of the afsR gene in the regulation of secondary metabolism in Streptomyces coelicolor A3(2)." Actinomycetol.9. 37-43 (1995)
• [文献書誌] Hiroyasu Onaka: "Cloning and characterization of the A-factor receptor gene from Streptomyces griseus." J.Bacteriol.177. 6083-6092 (1995)
• [文献書誌] Kenji Ueda: "Overexpression of a gene cluster encoding a chalcone synthase-like protein confers redbrown pigment production in Streptomyces griseus." J.Antibiot.48. 638-646 (1995)
• [文献書誌] Kenji Ueda: "The aerial mycelium-defective phenotype of Streptomyces griseus resulting from A-factor deficiency is suppressed by a Ser/Thr kinase of S.coelicolor A3(2)." Gene. (印刷中). (1996)
• [文献書誌] Sueharu Horinouchi: "A hormonal control system in Streptomyces: A-facter and its specific receptor." Arch.Microbiol.(印刷中). (1996)
• [文献書誌] 堀之内末治: "放線菌の抗生物質生産・形態分化におけるシグナル伝達" 蛋白質核酸酵素.
• [文献書誌] 堀之内末治: "微生物におけるホルモン制御:新しい抗生物質開発の可能性を拡大する放線菌のホルモン制御メカニズム、" 日経サイエンス. 25. 94- (1995)
• [文献書誌] Sueharu Horinouchi: "Dynamic Aspects natural Products Chemistry-Molecular Biological Approaches" Kodansha-Scientific Co.(印刷中), (1996)