メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が種々のβ-ラクタム剤に高耐性を示すのは、それが獲得した、起源不明のペニシリン結合蛋白質(PBP)のβ-ラクタム剤との親和性が低く、活性が阻害されにくいためであるといわれている。MRSA-PBPは、大腸菌の高分子量PBPと同様、N末端側に存在する疎水性アミノ酸からなる領域で細胞質膜を貫通し、結合していると考えられる。大腸菌の高分子量PBPの場合には、このN末端疎水性領域を欠失した水可溶性変異型酵素を作製することによりはじめて、蛋白質の精製に成功している。そこで、MRSA-PBPを水可溶性の状態で大量に発現させ精製し、その性質を調べる目的で、遺伝子上3ヶ所の制限酵素部位を用いて、N末端疎水性領域を欠失した可溶性MRSA-PBPの発現プラスミドを構築した。 1.His-Tagといわれるキレート・ペプチド(5アミノ酸残基)をN末端にもつ3種類の融合蛋白質を発現させたが、蛋白質はいずれも不安定で少量の融合蛋白質しか検出できず、これら蛋白質の精製は不可能であった。 2.マルトース結合蛋白質(分子量約3万)との融合蛋白質3種類の中では、N末端疎水性領域の直後で融合したものはペニシリン結合活性が認められる程度には発現していた。ファクターXa(プロテアーゼ)で融合部位を切断すると、N末端欠失、水可溶性MRSA-PBPが得られた。現在、活性中心推定残基に変異を導入した変異型酵素を作製中である。この発現系の場合でも融合蛋白質の生産量は必ずしも多くないので、大量に精製蛋白質を得るというのは難しいと思われるが、今後予定している変異型酵素の解析には使用可能であろう。
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