研究概要 |
本研究では2種類の酵母、即ちHansenula mrakiiとSaccharomyces cerevisiaeにおける酸化的ストレス応答機構を生化学的、あるいは分子生物学的に解析することを目的としている。本年度は以下の点について明かにした。 1. H. mrakiiにおけるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の細胞内局在性の解明 我々はこれまでの研究において、H. mrakiiのGPxが膜結合性であることを明かにし、本菌の膜画分からGPxを精製した(Inoue, Y. et al., Agric. Biol. Chem., 54: 3289-3293, 1990; Tran, L. T. et al., Biochim. Biophys. Acta, 1164: 166-172, 1993)。そこで、本菌におけるGPxのオルガネラ分布を検討した。その結果、本酵素は細胞質膜の他に、ミトコンドリア内・外膜に結合していることを明かにした。 2. H. mrakiiにおけるグルタチオン(GSH)再還元系の酸化的ストレスによる誘導 本菌を過酸化脂質含有培地で培養するとGPxが誘導される。本酵素が本菌における過酸化脂質耐性の獲得に必須であることは、すでに過酸化脂質感受性変異株の解析を通して明かにしている(Inoue, Y. et al., J. Ferment. Bioeng., 75: 229-231, 1993)。更に今回、本菌を過酸化脂質含有培地で培養すると、GPx反応によって酸化されるGSHを再還元する際に必要なNADPHを供給する酵素であるグルコース-6ーリン酸脱水素酵素が誘導を受けることを見いだし、これを精製しその酵素化学的諸性質を明かにした。 3. S. cerevisiaeのOSR遺伝子の機能解析 OSR遺伝子はS. cerevisiaeに対し過酸化脂質や過酸化水素に対する耐性を賦与する遺伝子としてクローニングした(Inoue, Y. et al., J. Ferment. Bioeng., 75: 327-331,1993)。本遺伝子の酵母細胞内機能の発現がGSHに依存的であることは既に前報において明かにしていたが、今回、更に詳細に検討するため、OSR遺伝子を破壊した変異株を構築しその表現型を解析した。その結果、osrΔ遺伝子破壊株は致死変異にはならないが、細胞外からの酸化的ストレスに対しては感受性が増大した。また、細胞内GSHレベルはosrΔ遺伝子破壊株では親株の40%程度減少し、OSR遺伝子過剰発現株では逆に親株の3倍にまで上昇していた。このことから、OSR遺伝子産物の酵母細胞内機能はGSHレベルを制御することであることが明かとなった。
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