研究概要 |
本研究では、2種類の酵母(Hansenula mrakiiとSaccharomyces cerevisiae)における活性酸素種(主として過酸化脂質に起因する)による酸化的ストレスに対する防御、あるいは適応機構を生化学的、あるいは分子生物学的に解析を行った。得られた研究成果を以下に要約する。 H. mrakii IFO 0895株は過酸化脂質に対し高い耐性を示し、その耐性獲得には過酸化脂質存在下で特異的に誘導されるグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)が必須である。本酵素のオルガネラ分布を検討した結果、細胞質膜、及びミトコンドリア内・外膜に結合して存在していた。ミトコンドリアは呼吸により多くの活性酸素種が発生する細胞内小器官であり、本酵素はそのような活性酸素から細胞を保護する機能を果たしてると考えられる。また、GPx反応によって酸化されるグルタチオン(GSH)を再還元する際に必要なNADPHを供給する酵素であるグルコース-6ーリン酸脱水素酵素も酸化的ストレスにより誘導されることを見いだした。本酵素を精製し、その酵素化学的諸性質を明かにした。 S. cerevisiaeに過酸化脂質耐性を賦与する遺伝子として我々がクローニングしたOSR遺伝子の全塩基配列を決定した。本遺伝子は1,278dpからなる読み枠を有しており、塩基配列から推定される遺伝子産物の分子量は4,7075であった。本遺伝子を破壊した変異株を作成し、その表現型を解析した。本遺伝子の破壊は致死変異ではなく、本遺伝子産物は酵母の生育に必須ではないことが明かとなったが、本遺伝子破壊株は過酸化脂質対する感受性が増大し、細胞内における正常な代謝過程で生じる過酸化物を消去するのに本遺伝子産物が必要であることが示唆された。OSR遺伝子産物の酵母細胞内機能を解析する過程で、本遺伝子破壊株では細胞内GSH含量が親株に比べ約40%低下していることを見いだした。また、OSR遺伝子過剰発現株では細胞内GSH含量は約3倍に増大していた。これらのことから、OSR遺伝子産物は細胞内GSH含量を制御することで過酸化脂質などに起因する酸化的ストレスに対し適応していることが示唆された。
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