研究概要 |
酵母は細胞表層に酸性ホスファターゼと無機リン酸(Pi)導入酵素を持っている。これらの酵素はそれぞれPHO5およびPHO84遺伝子にコードされ、環境のPi濃度の低い時は転写され、高濃度の時は転写抑制を受ける。これまでの解析から、Pi濃度の信号は、Pi→Pho81p→Po80p・Pho85p →Pho4p・Pho2p→酵素構造遺伝子プロモーターの順序で、上記5種のタンパク質からなる信号伝達系により伝達され、Pho4pとPho2p両タンパク質はホスファターゼ遺伝子に特異的な転写正因子であることが分かっていた。本研究では以下の知見が加えられた。 Pho81pタンパク質は外界のPiを検出し、その濃度が低いときには、サイクリン・サイクリン依存性タンパク質リン酸化酵素であるPho80p・Pho85p複合体に働き、そのリン酸化能を阻害する。そのため基質であるPho4pタンパク質はリン酸化されることなく転写活性を保ち、各酵素構造遺伝子の転写を行う。Pi濃度が高くなればPho81p活性は失われ、Pho80p・Pho85p複合体は活性を維持し、Pho4pをリン酸化しその転写能力を失はしめる(Ogawa et al.,Mol.Cell.Biol.15:997-1004,1995)。Pho4pは酵素構造遺伝子プロモーター領域のCACGTGまたはCACGTT配列を核とする部位に結合してその転写を促す。この結合モチーフの塩基配列を変更するとPho4pの結合が妨げられ転写は停止する。その5′隣接部はGが最も適しておりTでは機能を失う。これらの結果から、GCACGTGGGおよびGCACGTTTT配列がPho4pの結合配列であると結論した。ホスファターゼ系のその他の遺伝子を含めて見れば、プロモーターにはこの2種の塩基配列が少なくともひとつは共存し、上記の2遺伝子には3ヶが機能している。さらにそれら相互の組み合わせと周辺の塩基配列が微妙に関与して、転写量と脱抑制時と抑制時の相対比が決定されている。Pho2pはPho4pと協同してGGCACGTTTT配列に働きかけると示唆された(論文投稿中)。
|