研究目的:一般に個々の遺伝子はそれぞれ特徴的な発現挙動を示す。それは遺伝子に特異的なDNA結合能をもつ転写制御因子と、その制御下の遺伝子プロモーターにおける結合標的部位(UAS;upstream activation site) と隣接領域の塩基配列の対応によると考えられる。酵母のホスファターゼ系では、抑制性酸性ホスファターゼをコードするPH05遺伝子、抑制性アルカリ性ホスファターゼの構造遺伝子PH08、無機リン酸取り込み酵素の構造遺伝子PH084、これら酵素の生産制御系に属する制御タンパク質のひとつPho81pをコードするPH081などは、培養環境の無機リン酸濃度に対応してそのOn-Off調節がなされている。しかも各遺伝子に特徴的な脱抑制時/抑制時の転写比と量を示している。この対応を解明することが目的である。 結果:これまでの研究で、転写制御因子Pho4pに対する特異的UAS配列はCACGT(T/G)とされていたが、DNase Iに対するPho4pによるフットプリント像の比較と近傍の塩基配列を操作することにより、GCACGTGGGおよびCACGTTTTの塩基配列をコンセンサスとする2種のUASが機能しており、その間の組み合わせとPho4pと第2制御因子のPho2pとの組み合わせにより、遺伝子に特徴的な発現特異性が与えられることが示唆された。また、細胞外よりのリン酸信号をPho4pに伝達する機構についても解明が進み、Pho4pはPho80p-Pho85pタンパク質複合体によるリン酸化により、核への移行が阻害されることが他研究者により示された。Pho80p-Pho85p複合体の活性はPho81pにより、細胞外リン酸濃度に依存しながら阻害的に調節されることを我々は示した。さらに無機リン酸の取り込みに関係すると思われる新規なPho86p、Pho87p、およびPho88pタンパク質の存在が検出され、特にPho86pとPho88pはPho81pへのリン酸信号の伝達に関与することが示唆された。
|