研究概要 |
これまで、経口的に投与されたタンパク質が、未分解のまま、活性を保持したintactな分子として消化管から吸収されることを明快に示した論文は見当たらなかった。 今回、われわれはラットに経口投与したSerratia protease(SP,分子量5万)のごく一部がintactな分子として消化管から吸収されて血中へ移行することを、血中のSP抗原量とプロテアーゼ活性を測定することにより確認した。すなわち、(1)イムノアフィニティクロマトクラフィーにより精製したウサギ抗SP-IgGとそのHRP結合Fab′を用いる高感度サンドウィッチEIA(感度50pg/ml)と、クマリン系蛍光発色性ペプチドを基質に用いる高感度プロテアーゼ活性測定法(感度1ng/ml)を設定し、(2)SPを経口投与したラットから多数の血漿試料を得て抗原量とプロテアーゼ活性を測定し、両測定値から得られたSP濃度がよく一致することを認めた。(3)100mg/kgを投与した時の血中SP濃度は5ng/ml(10^<-10>M)以下で、総移行量は投与量の1/10,000程度であった。 以上の結果から、経口投与された生理活性タンパク質が活性を保持したintactな分子として消化管から吸収されることが初めて証明された。われわれがすでに得ている経口投与SPの抗炎症効果発現に関する成績と合わせ、生理活性タンパク質が消化管から血中へ移行して全身性の薬効を発揮する事実が明確に示されたという点で、本成果の意義は大きい。 7年度においては、このSPの吸収が、栄養条件の違いあるいは病態(炎症、感染、消化器疾患など)の有無によりどのように影響されるかを系統的に検討して、タンパク質の消化管吸収を支配する要因を明らかにして行きたい。
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