研究概要 |
経口的に摂取されたタンパク質は、通常消化管内のプロテアーゼによる加水分解を経たのち、アミノ酸や低分子ペプチドとして吸収されると考えられている。しかし、経口消炎プロテアーゼとして広く臨床使用されているセラチアプロテアーゼ(Serratia protease,SP,分子量5万)を熱傷受傷ラット(炎症モデル)に経口投与すると劇的な抗炎症効果が発現するというわれわれの観察から、経口投与されたSPの微量が、消化管内でプロテアーゼによる分解を受けることなく酵素活性を保持したまま吸収されていることが強く示唆された。 本研究において、まずSPの消化管吸収を証明し、次いでSPの消化管吸収を支配する要因(年齢、栄養条件、病態等)を明らかにすることを目的として検討を加えた。現在までに得られた結果は以下のとおりである。 1.血中SP濃度測定用の高感度EIAと高感度活性測定法を確立した。SPを経口投与したラットから多数の血漿試料を調製して抗原量とプロテアーゼ活性を測定した結果、両測定値から得られたSP濃度がよく一致し、経口投与されたSPの一部がプロテアーゼ活性を保持したまま血中へ移行することが明らかになった。 2.SPの吸収に及ぼす年齢と食餌摂取の影響を検討した。動物実験で通常用いられている成熟ラット(9-11週齢)の最高血中濃度が3ng/mlであったのに対し、離乳前ラット(3週齢)と食餌摂取老化ラット(75週齢)では120-160ng/mlと大幅に増加しており、吸収の著名な亢進が認められた。この結果、離乳前と老齢期において、消化管の構造ないし機能にタンパク質の吸収を容易にする何らかの特性が存在することを示している。 本研究により、タンパク質がintactな分子として消化管から吸収されることが初めて証明され、タンパク質の消化管吸収能の亢進が老化の指標となりうる可能性が示唆された。
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