森林流域における水溶性有機物の動態について把握するため、北海道大学天塩地方演習林と苫小牧地方演習林の試験流域において、水溶性有機・無機成分に間する調査をおこなった。得られた結果は以下の通りである。 1)森林流域では多量の有機物が、林内雨・樹幹流・O層浸透流などを通じて水溶性有機物として流域内に供給されている。しかし、その大部分は土壌のA層やB層などに吸着され、無降雨時の渓流水中に含まれている水溶性有機物の濃度は極めて低い。 2)蛇紋岩地帯のアカエゾマツ林流域では、無降雨時でも渓流水のE_<260>の値が水道用水としての世界保健機構の基準値を上回っていた。このことは、地質条件によっては森林流域の水であっても、水道用水として用いるには有機物処理の前処理の必要なことを示している。また、E_<260>の値は針葉樹林の流域で高い値を示した。 3)降雨時には、北海道北部の森林流域において、ササ地流域に比較して多量の水溶性有機物の流出が観測され、森林流域が水溶性有機物の発生源となることが明らかとなった。これは、主として針葉樹の落葉落枝を中心とした厚い堆積腐植層(O層)の存在によるものであり、O層浸透流中のアニオンの主要部分は高分子の有機酸であった。 4)水溶性有機物の指標である全有機態炭素(TOC)を使った流出解析の結果、降雨時流出の約40%は直接流出成分であった。TOC濃度は土壌のB層中では急減することから考えると、直接流出はO層のみを経由して直接渓流に流れ込むホ-トン型地表流であると推定され、流域土壌の透水性の低いことと密接な関連性が認められた。このことは、森林より発生した有機物による渓流水質の汚染は、流域土壌の生成条件(気候・地質・植生など)の影響を受けることを示唆しており、多様な環境下における流域での検討が必要と考えられた。
|