研究分担者 |
槙原 寛 農林水産省森林総合研究所, 森林生物部, 研究室長
岩田 隆太郎 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90213298)
張 培淦 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90256834)
名取 正彦 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (80059203)
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研究概要 |
マツ類の枯損被害は依然としてわが国で最大の森林病虫害で,その病原はかって北米から侵入したことが明らかにされている。病原線虫に関してはマツノザイセンチュウ及び近縁種の世界的な分布,病原性,形態等の解析が交配実験やDNA解析等を通じて進み,材線虫種群間の地方変異性等の関係が明らかになりつつある。これに対し,媒介昆虫,マツノマダラカミキリは日本の在来種で広く東アジアにも分布しているが,地方変異性等はほとんど知られていない。枯損防除は専ら媒介昆虫が対象で,効果的な防除に地域における生活史特性は最も重要である。 材線虫侵入後は,本来ならば樹木の枯損には関わらない枝樹皮の摂食が自らの繁殖好適木を増やす結果となり,カミキリ-材線虫の共生群集はマツがなくなるまで増え続け,高密度を維持する。在来種ではあっても分布の様相は変化しており,近隣諸国に分布する本種との系統的な関係など変異性について,客観的な指標を基に区分することが必要である。そのためにアイソザイムによる系統分析を試みた。当初十数種類の酵素をとりあげたが、研究環境の変更もあって安定した多くの泳動像の得られるエステラーゼに絞って解析を行った。供試虫の産地は幼虫態で16,海外からは南京,広州,台湾の3カ所,成虫は国内23,海外1であった。 国産では形態的な差異はほとんど認められないが,海外産では前胸背の赤色紋が鮮明である。台湾産は非休眠性である。国内産でも有効積算温量には地域による差異が認められた。アイソザイムに関しては,幼虫では国内産と中国産とで多くのバンドで出現に違いがあり,約100頭ずつの千葉・台湾産成虫を比較すると発現するバンドパターンに明らかに差があった。国内産の間では大差はないが,地域によっては特徴のあるパターンを示した。現在の地方個体群の分布は人為的なマツ被害丸太の移動によって大幅に攪乱されて全国的に均質化しており,そのためザイモグラフに共通点が多いといえよう。
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