研究概要 |
マツ材線虫病の発病機構は、線虫の樹体内での分散、増殖、侵入、細胞壁の分解、細胞殺傷等、宿主と線虫とが相互に作用しあういくつかの素過程からなるため、抵抗性樹種では、そのうちのどこかの過程に、感受性樹種との違いがあり病徴進展が阻止されるものと想像される。本研究は、これまでの研究同様、感染初期における諸素過程に焦点を絞り、材線虫病抵抗性がどの素過程の違いに由来するのかを明らかにすると同時に、各素過程で宿主と線虫との間にどのような物質的相互作用があるかを明らかにすることを目的にする。こうした観点から、本年度は、以下の研究実績を得た。 (1)強病原性線虫のクロマツ皮層細胞に対する殺傷能力と、皮層樹脂道の感染に対する役割を直接的に検証できる実験系を、樹皮の一部を削除した枝片を用いて確立した。(2)クロマツと材線虫病抵抗性マツの切り枝に強病原性線虫を接種し、エピセリウム細胞の破壊、柔組織の細胞死を、DAPI染色法(Ishida,Suzuki,Hogetsu,1992)等を用いて調べ、切り枝レベルでの材線虫病抵抗性を確認した。(3)クロマツと抵抗性マツの樹皮の一部を削除した枝片および剥離樹皮片に強病原性線虫を接種し、両者におけるエピセリウム細胞の破壊、柔組織の細胞死を比較し、機種による組織への線虫の侵入に対する抵抗性の違いが個々の細胞の抵抗性の違いに由来することを明らかにした。 ほぼ、当初の研究計画通り、順調に進展している。特に、強病原性線虫のクロマツ皮層細胞に対する殺傷能力と、皮層樹脂道の感染に対する役割を直接的に検証できる実験系を、樹皮の一部を削除した枝片を用いて確立したことは、特記に値する。今後、この方法を改良・活用すれば、抵抗性の原因について新たな知見が期待できる。また、現在、材線虫病防御物質あるいはファイトアレキシン、更には、線虫の動きと増殖を促進する物質を検索している。
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