平成6年度は本研究の初年目に当たり、まず、根内と小枝内の水の流れを測定するためのセンサーの開発に着手した。センサーは茎熱収支法に基づくものであって極めて小型に作製された。根用のセンサーについは、根が軟弱なため障害を与えないような構成材料と構造が決定された。開発したセンサーの精度はセスバニヤの根を用いて調べた。この実験は流量センサーによる計測値と、実測流量との比較によって行った。その結果、直径7.6mmの根ではセンサーは±10%の精度で流量を評価した。しかし、5.9mmと3.3mmの根ではそれぞれ約30%および約50%過大評価された。当初、過大評価の原因として、根の水流速が速い可能性が考えられたので、熱量が十分与えられるよう長いセンサー(20mm)を5.9mmの根に装着して再測定したが、この誤差は改善されなかった。そこで、根の導管の分布状態を細い根(3.1mm)と太い根(10.5mm)について顕微鏡観察したところ、細い根ではそれが中心部に分布しており、流量の変化が茎周囲に装着したセンサーに正確に反映されない構造であって、これが誤差の原因であることが示唆された。 小枝用センサーは直径が2〜3mmとさらに小型化された。根用と小枝用センサーの適用性を、それぞれ、セスバニヤと熱帯果樹であるチェリモヤを用いて調べた。その結果、根内及び小枝内とも、流量は日射量に追随した明瞭な日変化を示し、センサーの有効性が確かめられた。 以上のように、導管が中心部に分布する根での測定精度に問題が残るが、根や細い枝内の水の流れを測定するための方法の開発については、小型のセンサーを開発し、目的をほぼ達成した。これによって土壌-作物システムにおける水分動態研究の一層の発展が期待される。
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