研究概要 |
本研究は、畑作物と果樹を供試し,植物流量センサーを適用することによって,環境ストレス下の植物体の水分動態と水補償作用を明らかにすることを目的に実施された.得られた成果は次のように要約される. 1.植物の根内並びに果樹に果柄内を流れる水の量を測定するためのセンサーが開発された. 2.熱帯の飼料作物の一種であるセスバニアを供試した水ストレス実験から,根圏層に乾燥域と浸潤域が存在する場合,浸潤域の水は乾燥域の根を逆流し乾燥域の水不足を補償することが明らかになった. 3.この場合,乾燥域の根の水吸収機能低下に伴って,浸潤域の根は著しく発達することが見出された. 4.熱帯果樹のマンゴ-を供試した実験から,午前の早い段階で花序へ水が流れること,果実成熟期には同様な時間帯において,水ストレスが生じるような晴天日に葉群と果実の水の競合が起こり,葉群の水不足を補償するように水が果実から枝へ逆流することが観察された. 5.リンゴ樹の根,幹,枝条の水流の測定から,リンゴ樹の貯溜組織は分枝や樹冠であり,早期の蒸散はこの水を使って行われることが分かった. 本研究で認められた,水ストレスを軽減する水補償作用の存在は,この生物機能を高度利用することによって,天水栽培でも水ストレスを一層軽減することが可能であることを示している.このことはまた,灌漑農業では灌漑水量を減らすなどの水の節約へとつながる.一方,果実においてはストレスの制御による品質向上も可能となる.本研究は,このような生物機能の制御と高度利用に関する今後の研究への重要な基礎を与えた.
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