研究概要 |
乳腺上皮細胞の増殖はインシュリン,IGF-I,EGFなどの成長因子によって制御されている。これら成長因子の初期シグナル伝達過程は種々の細胞で調べているが、細胞周期の調節にいたる過程は、すべては明らかになっていない。乳腺上皮細胞は,周期中にはステージによる明らかな増殖のサイクルを示すとともに,妊娠初期には増殖し,泌乳期には増殖がきわめて不活発になり,成長因子の作用機序を研究する際の基礎となる現象が調べられている。さらに,増殖を調べる培養系,形態形成を調べる培養系,機能発現を調べる培養系など,それぞれの培養系が確立している。また,近年p53ノックアウトマウス由来の正常乳腺の培養株がクローニングされたので,本年はこれを利用して実験した。 まず,成長因子の作用が,細胞周期のどこで作用しているかを明らかにした。正常乳腺上皮由来の細胞株を無血清で培養すると,細胞は増殖を停止し,細胞周期を同期化することができる.これに成長因子を加えると,DNA合成期に入るので,細胞はG_0/G_1期で分裂を停止していることが明らかである。以上の実験は,セルソーターFACScanを用いて行った。次に,細胞周期におけるサイクリンの発現を明らかにするために、乳腺上皮の細胞株を用いてその時期特異的な発現を調べた。細胞を無血清培地で培養することにより同期化し、その後、血清を加えてG_1期からS期に移行する過程でサイクリンD_1をイムノブロットにより調べた結果、G_1/S期の移行に際し、サイクリンD_1増減がみられ,その前後に比べてサイクリンD_1の量は多かった。しかしながら,このようにして同期化した細胞は,約40%がG_0期に入っており,DNA合成期に入らないので,現在合成期に移行のため必要なコンピテンス因子を検索中である。
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