研究概要 |
乳腺上皮細胞の増殖はインシュリン,IGF-I,EGFなどの成長因子によって制御されている。これら成長因子の初期シグナル伝達過程は種々の細胞で調べられているが,細胞周期の調節にいたる過程は,すべて明らかになったわけではない。とくに,乳腺上皮細胞における成長因子の刺激による細胞周期の調節を調べるために,p34^<cdc2>,p33^<cdk2>,サイクリンA,B_1,D_1,D_2,D_3,Eなどを妊娠および泌乳マウスについて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応とイムノブロット法により調べた。p34^<cdc2>およびp33^<cdk2>は,抗体による免疫沈降の後,イムノブロットを行ったところ,上皮細胞の分裂が盛んな妊娠前期に多く,泌乳期には少なかった。逆転写ポリメラーゼ連鎖反応により調べたサイクリンの発現のうち,サイクリンA,D_2,EのメッセンジャーRNAは,分裂の盛んな妊娠前期に高く,細胞分裂の少ない妊娠前や泌乳期には低かった。それに対し,サイクリンB_1,D_1,D_3のメッセンジャーRNAは,妊娠や泌乳期を通じてあまり変化しなかった。また,癌抑制遺伝子関連の蛋白質で,サイクリン依存性キナーゼ(cdk)の抑制因子であるp21やp27のメッセンジャーRNAは乳腺上皮細胞の分裂が盛んな妊娠前期に活性が高く,泌乳中には低かった。細胞分裂の盛んな時期にその抑制因子の活性が高い原因は明らかではないが,細胞の制御された分裂のために,これら抑制因子が作用しているのではないかと考えられる。 細胞周期におけるサイクリンの発現を明らかにするために、乳腺上皮の細胞株を用いてその時期特異的な発現を調べた。細胞を無血清培地で培養することにより同期化し、その後、血清を加えてG_1期からS期に移行する過程でサイクリンD_1をイムノブロットにより調べた結果、G_1/S期の移行に際し、サイクリンD_1の増減がみられた。
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