研究概要 |
牛肉において脂肪は品質や味を左右する重要なファクターである。ウシにおける脂肪蓄積の遺伝的制御機構を明らかにすることを目的として分子遺伝学および統計遺伝学の両面から研究を行った。 分子遺伝学的アプローチとして、脂肪細胞分化および脂肪蓄積に関わる遺伝子のクローニングとその発現制御機構の解析を行った。脂肪細胞分化の制御因子であるC/EBPファミリー(α,β,δ)の3種の遺伝子とPPARγ2のcDNAをウシからクローニングした。これらの遺伝子はいずれもマウスのものと高い相同性を示した。ウシC/EBPαのプロモーター領域の解析の結果、ウシではマウスやヒトで発現制御に重要であるC/EBP結合配列やUSF結合配列が保存されておらず、ウシC/EBPα遺伝子の発現制御機構が異なる可能性が示唆された。遺伝子多型の解析から、このウシC/EBPαのプロモーター配列の特徴はウシの品種を越えて保存されていることが示された。また、脂肪蓄積を制御する遺伝子として、肥満の原因遺伝子の1つであるobese遺伝子をウシから単離した。 統計遺伝学的アプローチとして、脂肪交雑に関与する遺伝子座の数、とくに主働遺伝子の関与について検討した。その結果、熊本県褐毛和種牛集団において脂肪交雑に関して集団内分離している効果の大きな主働遺伝子の存在が示唆された。さらに、集団内に分離している家系も検出された。したがって、このアプローチは遺伝子マーカーを用いた量的形質遺伝子座(QTL)の解析への手がかりになると期待される。 このように分子遺伝学と統計遺伝学の両面からのアプローチが脂肪蓄積の制御機構を解明する上で非常に大きな意義を持つことが、本研究を通じ明らかにされた。
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