我が国の子豚に中耳炎が多発(約70%)していることを発見し、その原因と病理発生を明らかにするため、本研究を行った。出生直後から1歳までの豚総計479頭を検査し、以下の結果を得た。中耳炎は耳管炎から発生し、耳管炎は生後1週齢内の哺乳豚に既に高率に存在していた。中耳炎病巣からは様々な口腔および上部気動常在細菌が分離された。子豚の50%の耳管粘膜表面でMycoplasma hyorhinis (Mhr)が形態学的(酵素抗体法および超微形態)に証明され、67. 9%の子豚の耳管拭い液からMhrが分離された。また、Mhrは耳管炎が軽度な症例でより高頻度に分離され、Mhr感染と耳管炎発生の間には統計学的に有意な相関があった。以上の結果から、豚の耳炎はMhr感染による耳管炎に始まり、それによって、耳管から中耳腔へ侵入する細菌などの異物を排除する機能を有する耳管粘膜の線毛が傷害され、細菌性中耳炎が発生するものと考えられた。 以上の仮説を証明するため、SPF子豚を用いてMhrの接種実験を行った。Mhr 17TCクローニング株を尿道カテーテルを用いて、経鼓膜的に中耳腔(鼓室)へ接種し、接種後0、7、14、および25日後に子豚を剖検して病理および微生物学的に検索した。接種菌量、Mhr希釈液、あるいは実験期間を変えて3回の実験を行った。その結果、いずれの実験においてもMhr接種によって中耳炎を高率に再現することができ、接種後14日をピークに中耳内でMhrが増殖するとともに、病巣からMhrクローニング株を回収することができた。また、Mhr単独感染で惹起された中耳炎は、接種後25日までに一過性に終息することが分かった。これらの結果より、子豚の中耳炎はMhrを一次病原体とする新しいマイコプラズマ性疾患であることが証明された。なお、以上の研究成果の一部は平成7年9月横浜で開催された世界獣医学大会において口頭発表された。
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