研究概要 |
研究代表者らは、断片化DNAを検出するTUNEL(DNA end labeling)法と細胞死を染色するNile blue染色法を用いて、マウス・ラット胎児におけるアポトーシスの発現時期とその局在を調べ、各種器官の形成過程でアポトーシス(プログラム細胞死)の興味ある部位的局在と時間的推移を見いだした。特に、アポトーシスが、器官形成過程(特に四肢や口蓋形成過程)において重要な役割をなしていることを以下のように明らかにした。1)哺乳類の口蓋形成過程におけるアポトーシスは、口蓋突起の正中縫線上皮細胞のうち、間葉細胞に形質転換(transformation)できなかった細胞を排除するために起こっている可能性を見出した(Mori et al., Anat Embryol., 1994)。2)四肢の形態形成過程におけるアポトーシスには、上皮と間葉細胞の相互作用による指の形成過程において、指の分離のほかに五指の形成される位置や大きさを決定する役割を果たしていることを見い出した(Mori et al, Anat Rec, 1995)。 以上の結果より四肢や口蓋形成過程におけるプログラム細胞死(アポトーシス)の生物学的意義に関する新しい仮説を提唱した(Mori, Acta Anatomica Nipponica 1995, in press; 塩田、日本産婦人科学会関東連合会報)。 また、異常発生過程でのアポトーシスの関わりを検索するために、化学物質(BrdU)により多脂症や合指症を誘発した。四肢形成の異常発生過程と正常発生過程で、アポトーシスに関連する遺伝子や形態形成遺伝子(Hoxd-11,Fgi-4)の経時的発現パターンを比較検討した結果、奇形発生部位でそれらの遺伝子が過剰発現していることを見いだした。(Nakamura et al., Teratology, 1996, in press)。さらに、特定遺伝子の選択的な抑制を目的とするアンチセンス法の口蓋器官培養系への応用を試み、その実用性について検討を加えた(Naitoh et al., Acta Anatomica Nipponica 1996, in press)。
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