腎臓における自動性調節機序として尿細管・糸球体フィードバック(TGF)機構が想定されている。本研究の目的は、センサーであるマクラデンサ細胞が感知した情報を、効果器である糸球体輸入細動脈へ伝える伝達物質をin vivoおよびin vitroの系で実証することにある。我々はマクラデンサ細胞に豊富に存在する一酸化窒素(NO)合成酵素に注目して、伝達物質の第1の候補としてNOを、そして第2候補としてイオン再吸収に際し産生されるアデノシンを選び検討を加えた。 In vivo実験:ペントバルビタール麻酔イヌの腎動脈に高張食塩水を注入し、尿細管の仕事量(Na再吸収)を増加させると、腎血流量の低下、即ち腎血管の収縮が認められた。申請者等が開発した実質臓器用ミクロダイアリーシス法により腎間質中のアデノシン濃度を測定すると、間質中のアデノシン濃度は4〜5倍増加していた。次いで、アデノシンI受容体拮抗薬の前処置下に、腎動脈内に高張食塩水を注入すると、腎血管の収縮はほぼ完全に抑制された。 In vitro実験:効果器である糸球体輸入細動脈を強く収縮させるアンジオテンシンII、バゾプレシンとNOの関係について、単離輸入細動脈を用い検討した。アンジオテンシンIIは、輸出細動脈に比べ輸入細動脈の収縮作用は非常に弱いが、NO合成酵素阻害剤処置後では、非常に強い収縮作用を発揮した。その作用は、プロスタグランジン合成阻害により一層増強された。バゾプレシンもV1受容体を介し輸入細動脈を収縮させるが、V2受容体を介し拡張作用を発揮することを明らかにした。この拡張作用は、NO合成阻害下では抑制されることから、V2受容体-NO合成促進系の存在が示唆された。 以上、本研究でアデノシンはTGF機構の主な伝達物質である可能性を示し、またNOは多くの血管作動物質の輸入細動脈への作用を修飾することを明らかにした。
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