研究概要 |
本研究ではこれまでにcDNAクローニングにより同定された下記の転写制御因子をコードする遺伝子の欠損マウスを作製し、その異常を解析した。 1.CRE(cAMP response clement)結合蛋白質CRE-BP1ファミリー:CRE-BP1はJunとヘテロダイマーを形成し、CREに結合することから、シグナル伝達経路のPKA経路とPKC経路のクロストークに重要な役割を果たしていると考えられている。そしてその発現パターンなどからCRE-BP1は多くの細胞の増殖制御、海馬などの神経細胞内のシグナル伝達に関与していると推定されている。CRE-BP1と構造が類似する転写因子が他に2種類同定されており(CRE-BPa,ATF-a)、CRE-BP1ファミリーは3つのメンバーから成っている。CRE-BP1遺伝子を欠損する変異マウスを作製した。ヘテロマウスは正常マウスと全く変わらず、異常は見られなかった。ホモマウスは生後20-30分以内にすべて死亡したが、各組織での形態異常は全く見られなかった。これらの結果からホモマウスでは脳・神経細胞内でのシグナル伝達に異常があり、その結果中枢神経系などに異常が生じることにより死亡するのではないかと推定している。CRE-BPa遺伝子を欠損する変異マウスを作製した。ヘテロマスウは正常マウスと全く変わらず、異常は見られなかった。ホモマウスは生まれてこないことから、胎児期に致死となると推定している。ATF-a遺伝子を欠損する変異マウスを作製した。ヘテロマウスは正常マウスと全く変わらず、異常は見られなかった。ホモマウスの雌は生まれてくるが、雄は全く生まれてこないことから、雄が特異的に胎児期に致死となると推定している。以上の結果から、3つの転写因子は大変よく似た構造を持つにも拘わらず、それぞれが特異的な生理機能を持っており、どれかひとつだけを欠損させただけで異常が生じることが示された。 2.skiがん遺伝子ファミリー:c-skiプロトオンコジーン産物(c-Ski)およびその関連遺伝子産物SnoはCEFや血液細胞をがん化する。ski,snoは両方共血液細胞を含む多くの細胞の増殖制御に関与すると考えられている。sno遺伝子を欠損する変異マウスを作製した。ホモマウスは生まれてこないことから、胎児期に致死となると推定している。ヘテロマウスは生まれてくるが、その一部は体重の減少などを伴い、死亡する。このようにsno遺伝子も生存に必須であることがわかった。
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