研究概要 |
ヒトでは肝臓のペルオキシソームに存在し,グリオキシル酸(蓚酸の前駆体)の除去という役割を演じているセリン:ピルビン酸/アラニン:グリオキシル酸トランスアミナーゼ(SPT/AGT)は,原発性高蓚酸尿症1型(PH1)の原因酵素である。最近我々は,PH1-症例の変異SPT/AGTが細胞内で速やかなATP依存性分解を受けることを明らかにした。本研究では,このATP依存性分解の機構解明を目的とした。網状赤血球溶液を用いた実験では,変異SPT/AGTの分解はATPのみならずMg2+にも依存し,またdATP,CTP,UTP,GTP,ADPはATPの代わりになり得るが非水解性ATP類緑体やAMPは無効であること,すなわち変異SPT/AGTの分解はエネルギー依存性であることが明らかになった。更にプロテアソームに対する抗体を用いた実験により,変異SPT/AGTの分解は26Sプロテアソームとは異なる新しいエネルギー依存性プロテアーゼにより触媒されていることが示唆された。しかし,その精製の試みは,容易に起こる失活のためにこれまでのところ不成功であった。変異SPT/AGT分解のプロテアソーム依存性の確認,更には問題のプロテアーゼ同定の目的で,酵母細胞での発見を試みたが,プロテアソームサブユニット欠損変異株では,変異SPT/AGT-cDNAのみならず正常cDNAの発現も困難という事態に遭遇した。β-Galとの融合蛋白を発現させ,β-Gal活性の消失を指標として分解系欠損変異株を選別しようとした実験では正常SPT/AGTとの融合蛋白質も分解を受けることが観察された。現在,変異SPT/AGTの精製あるいは部分精製標品を基質とする単純化されたin vitro分解活性アッセイ系の確立とこのアッセイ系による変異SPT/AGT分解プロテアーゼ系の特徴づけおよびこの分解へのユビキチン系の関与の有無の決定を目指して研究を行っている。
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