研究概要 |
原発性高蓚酸尿症1型(PH1)は肝臓のセリン:ピルビン酸/アラニン:グリオキシル酸トランスアミナーゼ(SPT/AGT)に異常を持つ先天性代謝疾患である。我々は,PH1の変異SPT/AGT(Ser205Pro)がATP依存性分解を受けることを見出した(J.Cell Biol.123,1993)。細胞内の種々の分解系が異常蛋白質を良好な基質とすることは知られているが,先天性代謝疾患の変異蛋白質の分解機構は未だ不明である。そこで,本研究ではこの変異SPT/AGTの分解を解析した。網状赤血球溶血液系による変異SPT/AGTの分解はATPのみならずMg^<2+>にも依存し,また加水分解を受けないα,β-methylene-ATP,β,γ-methylene-ATPは無効であったことから,この分解はエネルギー依存性と結論した。エネルギー依存性細胞内蛋白分解装置としてユビキチン-26Sプロテアソーム系がよく知られている。しかし,抗20Sプロテアソーム抗体で処理し,プロテアソームのペプチダーゼ活性,^<125>I-リソチーム分解活性をそれぞれ100%,88%喪失したラット網状赤血球溶血液は変異SPT/AGT分解活性を保持していた。阻害実験において,20Sプロテアソーム阻害剤のMG115,PSIは共に無効であり,更に形質転換酵母細胞を用いた実験において,プロテアソームのキモトリプシン様活性を欠く変異株pre1-1も野生株と同様に変異SPT/AGTを分解した。以上から,プロテアソーム以外の未知のエネルギー依存性蛋白分解系が変異SPT/AGTの分解に関わると推定された。しかし,この分解活性は簡単な操作で容易に消失し,且つ変異SPT/AGTをdegradation competentにする他の因子も必要とするらしいということでその精製には至らなかった。別の実験で,SPT/AGTのピリドキサル5'ーリン酸補酵素結合残基はLys209と同定され,Ser205Pro変異はその極く近傍に起こっていることが明らかになった。
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