研究概要 |
原発性高蓚酸尿症1型は肝臓のセリン:ピルゲン酸/アラニン:グリオキシル酸トランスアミナーゼ(SPT/AGT)に異常を持つ先天性代謝疾患である。われわれは、原発性高蓚酸尿症1型-症例の変異SPT/AGT(Ser205Pro)がATP依存性分解を受けることを見出した。異常蛋白質の分解に関する研究はこれまでにも行われているが、先天性代謝疾患の変異蛋白質の分解に実際に関与する機構は未だ不明である。そこで、本研究ではこの変異SPT/AGTの分解を解析した。網状赤血球溶血系による変異SPT/AGTの分解はATPのみならずMg^<2+>にも依存し、また加水分解を受けないα,β-メチレンATP,β,γ-メチレンATPは無効であったことから、この分解はエネルギー依存性と結論した。エネルギー依存性細胞内蛋白分解装置としてユビキチン-26Sプロテアソーム系が知られている。しかし、変異SPT/AGTの分解はプロテアソームのペプチドアルデヒド型阻害剤であるPSIやMG115によってはほとんど影響を受けず、またあらかじめ抗20Sプロテアソーム抗体を用いてプロテアソームを除去したラット網状赤血球溶血液でも、更に20Sプロテアソームのキモトリプシン様活性を欠く酵母の変異株Pre1-1でも変異SPT/AGTの分解が認められた。以上から、プロテアソーム以外の未知のエネルギー依存性蛋白分解系が変異SPT/AGTの分解に関わると推定された。しかし、この分解活性は緩和な条件の精製操作で容易に消失し、変異SPT/AGTを分解可能な状態に保つ他の因子も分解に関与するらしいということで、変異SPT/AGT分解系の精製には至らなかった。別の実験で、SPT/AGTのピリドキサル5'リン酸補酵素結合残基はLyS209と同定され、Ser205Pro変異はその極く近傍に起こっていることが明らかになった。
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