低分子量G蛋白質のRasは細胞の増殖や分化を制御していることが明らかとなっているが、その作用機構は不明であった。そこで、Rasの作用機構を明らかにする目的で、Rasの標的蛋白質の単離・同定を試みた。その結果、Rasの新規標的蛋白質としてAF-6を同定した。AF-6はショウジョウバエの眼の分化に関与する遺伝子Canoeのヒトホモログである。Canoeは形態形成に関与する細胞膜受容体Notchの下流で機能することが明らかとなっている。AF-6とCanoeは共に細胞接着に関与するGLGFモチーフを持ち、細胞接着の制御に関与している可能性が高い。そこで、私共は抗AF-6抗体を用いてPC12細胞におけるAF-6の局在を検討した。その結果、AF-6は細胞間の接着部位に局在することを見出した。したがって、RasはAF-6を介して細胞の接着性を制御している可能性が高い。一方、私共は、今一つの低分子量G蛋白質Rhoの標的蛋白質としてプロテインキナーゼN(PKN)、新規プロテインキナーゼ(Rhoキナーゼ)、ミオシンフォスファターゼのミオシン結合サブユニット(MBS)を同定した。これらの結果から、Rhoの下流にセリン/スレオニンキナーゼとフォスファターゼが存在することが初めて明らかになった。また、Rhoがストレスファイバーの形成を促進することと、ストレスファイバーの形成にはミオシン軽鎖のリン酸化が重要であることがすでに報告されている。私共はRhoがRhoキナーゼを介してミオシンフォスファターゼに作用することによりミオシン軽鎖のリン酸化を制御していることを明らかにした。これにより、Rhoによるストレスファイバーの形成機構が分子レベルで初めて明らかになった。 以上本年度の研究計画はほぼ達成することができたと考えている。
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