既知のウイルス肝炎とは異なる肝炎が存在し、F型とかX型とか非A非B非C非D非E型肝炎と呼ばれている。このF型肝炎は急性ウイルス肝炎の25%、慢性肝炎の5%を占めている。我々はこのF型肝炎に関し、研究期間中次の諸点を明らかにした。第1、F型肝炎の約80%が実に血清マーカー陰性(サイレント)のB型肝炎であることを血清中のウイルス遺伝子をPCR法で増幅することによって証明した。残りの約20%の症例は最近米国で同定されたG型肝炎である可能性がある。B型ウイルスに感染していながら急性肝炎ではHBs抗原と、HBc IgM抗体が、慢性肝炎ではHBs抗原が陽性にならないのである。これらのマーカーが陽性にならない理由はウイルス遺伝子の複製と発現が抑制されているためと考えられる。第2、4人の患者のサイレントB型ウイルスの全塩基配列を決定し、共通に認められ、しかも遺伝子複製が抑制されるような重要な変異を探した。その結果、X領域に8塩基の欠失とDR2の点変異を発見した。前者によりフレームが変わり本来154アミノ酸からなるX蛋白が134アミノ酸に短縮してしまう。欠失したアミノ酸部位にはX蛋白の活性ドメインが存在するため、この短縮X蛋白にはトランスアクチベータ-活性が喪失していると考えられる。またこの欠失する8塩基部位はプロモーターやエンハンサーの重要配列なので、これらの機能も阻害される可能性がある。DR2の点変異はウイルスの複製起点を阻害すると考えられる。これが血清マーカー陰性の原因であろう。第3、サイレントB型ウイルス全長遺伝子をクローニングしhead-to-tail dimerを作製した。第4、wild dimerをコントロールにしてin vitroでHuh7細胞とKiml細胞にトランスフェクションした。培養上清中のHBs抗原とHBe抗原を定量したところ、予想に反して両dimer間にはっきりした差異は認められなかった。B型ウイルスのin vitroでの複製と発現にはX蛋白が不要なのかもしれない。
|