retプロトオンコジーンの腸管神経系形成における役割

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06454192
• 研究機関: 名古屋大学
• 研究代表者: 高橋 雅英 名古屋大学, 医学部, 講師 (40183446)
• 研究分担者: 渡辺 芳夫 名古屋大学, 医学部, 助手 (80201242)
• キーワード: retプロトオンコジーン / チロシンキナーゼ / Hirschsprung病 / 腸管神経系

研究概要

本年度はRet蛋白C末端に対するペプチド抗体を作製し、ラット胎生期におけるRet蛋白の発現を経時的に探索した。胎生10.5日から18.5日までの胎児の凍結切片を蛍光抗体法で染色し、発現細胞を同定した。その結果、Ret蛋白陽性の細胞は胎生11.5日頃より腸管周囲、大動脈周囲に検出されるようになり、その後それぞれ腸管神経系、交感神経幹を形成することが判明した。腸管神経系では胎生14.5日までにほぼ全腸管周囲にRet陽性細胞が出現し、胎生16.5日頃になると筋層間神経叢を形成するようになった。また胎生12-14日にかけて顔面、舌咽、迷走神経の末梢の神経核に陽性を示すようになる。胎生16.5日になると三叉神経の末梢核の神経細胞も陽性になった。これらの結果より、Ret蛋白は末梢神経系の分化に重要な役割を果たしていることが推定される。神経系以外ではやはり胎生11.5日頃より泌尿器系の中腎管に陽性細胞が認められるようになり、13.5日になると中腎管が後腎組織に陥入して生じる尿管芽、さらに発生が進むと腎臓内の集合管に陽性所見を示すようになる。以上のようなRet蛋白の胎生期における発現様式は、ret遺伝子のノックアウトマウスにおいて腸管神経細胞と腎臓の欠損が生じるという事実とよく一致している。
またHirschsprung病類似の病態をしめすラットにおけるRet蛋白の発現を検索した結果、正常部から病変部へ移行する腸管に残存している神経細胞に強い発現が認められた。これは移行部の神経細胞が病変部における神経細胞の欠損を代償しようとする働きを反映しているかもしれない。
Ret蛋白のリガンドを検索する研究については、現在のところリガンドを発現する培養細胞を同定できておらず、さらにスクリーニングする培養細胞株の数を増やす予定でいる。同時にスクリーニングの方法等、技術面の改善も検討している。

研究成果

• [文献書誌] Masahide Takahashi: "ret Proto-oncogene and human diseases" International Journal of Oncology. 4. 81-84 (1994)
• [文献書誌] Shoichi Maruyama: "Germ line mutations of the ret proto-oncogene in Japanese Patients with multiple endocrine neoplasia type 2A and type 2B" Japanese Journal of Cancer Research. 85. 879-882 (1994)
• [文献書誌] Dai Yan: "Recombinant ret oncogene products induce T lymphocyte Proliferation and suppress lymphoma derived from ret transgenic mice" International Journal of Oncology. 5. 661-665 (1994)
• [文献書誌] Toyonori Tsuzuki: "Spatial and temporal expression of the ret Proto-oncogene Products in embryonic,infant and adult rat tissues" Oncogene. 10. 191-198 (1995)
• [文献書誌] Naoya Asai: "Mechanism of activation of the ret proto-oncogene by multiple endocrine neoplasia 2A mutations" Molecular and Cellular Biology. 15. 1613-1619 (1995)
• [文献書誌] Yoshio Watanabe: "Expression of ret Proto-oncogene Products in the hypoganglionic segment of the small intestine of congenital aganglionosis rats" Journal of Pediatric Surgery. (in press). (1995)