近年、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が院内感染菌として急増したことから、早急な対策が必要となり、MRSA感染症の背景因子、予防対策、症状、治療、予後などに関しては多くの優れた論文が報告されるようになった。しかしながら、今日までMRSAはすべての弱毒菌であるという考えが主流を占めていたため、その病原因子に関する研究はほとんどないのが現状である。ところで、我々は消化器系の手術後にMRSAの感染によってコレラ様の激しい水様性下痢をおこし死亡した患者の下痢便から分離したMRSAが、マウス等の小動物の心臓の拍動を停止させる強力な毒素を産生していることを発見し、その完全精製に成功した。精製された毒素は分子量約50.000で60℃10分間の加熱で失活する易熱性のものと、分子量約40.000で、80℃、30分間の加熱に対しても安定な耐熱性のものであったが、アミノ酸配列や動物化学的諸性状から両者はまったく異なる新しい蛋白質であった。この二つの毒素は互いに相乗的に毒性を高めあうなど、いくつかのユニークな作用メカニズムが解明された。特にマウス毒素を投与し、心拍停止に、いたるまでの詳細な心電図をとることに成功したので、今後の作用機構解析に役立てたい。
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