研究概要 |
本研究において、開腹手術後にコレラ様の水様性下痢を起こした患者の下痢便から分離したMRSAから新しい病原因子を見出した。そのうち、2種のサイトトキシンについて完全精製し、その毒性について検討したこれらのトキシンは種々の培養細胞に中性脂肪の異常蓄積を起こし、最終的に細胞を死滅させた。このことはHL-サイトトキシンが中性脂肪代謝系の諸酵素を障害する可能性を示唆しており興味深い。 また、MRSAのHL-サイトトキシンはマウスにおいて即時型致死活性を示した。心電図上は洞房結節ペースメーカー機能,房室結節伝導に対して抑制作用を示すことから、L型Ca^<++>チャネルに対して抑制作用をもちまた、心室内伝導も障害されたことから、Na^+チャネルにも抑制作用をもつことが示唆された。 しかしながら、モルモット摘出乳頭筋を用いた実験において、これらの仮説を支持する実験成績は得られなかった。すなわち、HL-サイトトキシンは発生張力をむしろ増加させたし、Na^+電流の間接的指標である活動電位最大立ち上がり速度を低下させなかった。このことは、HL-サイトトキシン静注後すぐに発現した不整脈の原因として、他の要因も考慮しなければならないことを意味する。HL-サイトトキシンを灌流液に加えると、直後に著明な発生張力の増加と活動電位変化をきたし、この変化はpropranolol, prazosinというアドレナリン受容体遮断薬で減弱した。したがって、HL-サイトトキシンが乳頭筋標本に含まれる交感神経末端からノルアドレナリンを遊離させたものと考えられる。しかしながら、in vivoでの心電図では心拍数の減少、房室伝導の障害が観察された。この変化は、ノルアドレナリンの遊離によって起こると予想される反応とは逆の現象であり、HL-サイトトキシンの他の作用、例えば冠動脈攣縮作用などを介したものとも解釈される。
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