Fv-1遺伝子による増殖抑制下でBトロピックMLVを培養した場合、理論的にはB→NB、B→Nの2通りのエスケープが可能なはずである。ところが、BALB/cマウスの内在性BトロピックMLVを用いた実験では、B→NBというエスケープ変異しか起こらないとされている。今回B→NBの変異を塩基レベルで明らかにするとともに、B→Nの変化も起こり得ることを確認した。 BALB/cマウスの内在性BトロピックMLV(WNB2N6)とそれをFv-1^<n/n>の細胞でパッセージすることにより我々の教室で分離されたNBトロピックMLV(WNB2N6NB)の両者からキャプシド遺伝子部分をPCR法で増幅し、塩基配列を決定した。WNB2N6では、キャプシドをコードする789塩基の全てがすでに報告されている配列に一致した。一方WNB2N6NBでは313番目の塩基がG→Aへと変異していた。この変異はキャプシドの105番目のアミノ酸をアスパラギン酸からアスパラギンへと置換する。従って、B→NBへのトロピズム変化は1アミノ酸の置換でおこり、しかもその置換は既に同定されているNまたはBの決定基(キャプシド蛋白質p30の109番目と110番目の2アミノ酸)の外に存在していた。 さらにFv-1遺伝子による抑制下でのMLVの変化を解析するために、大腸菌由来のsupF遺伝子をマーカーとして持つ組み換えBトロピックMLV(B-MoF)を作製した。B-MoFをFv-1^<b/b>のYH-7細胞にトランスフェクションし、得た培養上清を種ウイルスとした。これをYH-7細胞に感染すると4週間でNトロピックMLVが検出される様になることがわかった。BトロピックMLVとNトロピックMLVではキャプシド内にあるFv-1トロピズム決定部位6塩基中4塩基が異なっているから、B→Nへのトロピズム変化が、突然変異ではなく組み換えによって起り得ることが強く示唆された。
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