研究概要 |
ヒト白血病ウイルスI型(human T cell leukemia virus type I;HTLV-I)は成人T細胞白血病(Adult T cell leukemia;ATL)の病原ウイルスであり、ヒトに腫瘍を引き起こすウイルスとしてはじめて発見されたレトロウイルスである.本研究はこの発癌ウイルスによる腫瘍化のメカニズムを明らかにし,ATLという重篤な白血病に対する治療法を開発するために、このウイルス感染による生体内における腫瘍細胞の増殖を再現できる動物モデル系の開発に主眼が置かれた. 先天的にT細胞とB細胞を欠損する免疫不全症(SCID)マウスにさらにNK活性の低いmutantマウスを交配し、より重篤な免疫不全マウスを作製し,移植細胞の腫瘍原性を検討する方法を開発した.我々はこれらのmutantマウスを用いてATL白血病細胞がマウス個体内で異常に増殖し、マウスを腫瘍死させることを再現した. このマウスの中で増殖するHTLV感染細胞はヒトの感染個体内で増えるATL白血病細胞と同じ細胞群と思われる.このモデル動物は腫瘍化の過程を見る系ではなく、すでに腫瘍化した細胞を別の個体内で継代維持する系である.現在までのところこのマウスの中で継代される白血病細胞群ではIL-2,IL-10さらにM-CSFなどのサイトカイン遺伝子の発現は強く活性化されているが、すべての細胞にHTLVのウイルス遺伝子がDNAとして存在しているにもかかわらず、その遺伝子発現は非常に少ないことが判明している.すなわち,おそらく腫瘍の発生にはtax遺伝子の関与は間違いないと思われるが、この腫瘍細胞の増殖維持にはtax遺伝子の発現はもはや必要がないのではと考えられる.そこで本当に白血病細胞が形成されるのにウイルス以外の何らかの因子の関与を考えざるを得ない.
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