ウイルス感染に伴って発現される種特異的組織特異的病原性は、第一義的には細胞表面のレセプター分子の有無で決定される。エンテロウイルス70(EV70)はヒトの眼結膜にのみ感染し、急性出血性結膜炎をおこすウイルスであるが、レセプター分子の構造と機能を解明することが本ウイルスの病原性を理解するうえで重要と考えられる。本研究では、EV70感受性ヒト由来細胞の表面に結合し、EV70感染阻止能をもつモノクローナル抗体(mAb)を作製した。このmAbと放射能ラベルした精製EV70ウイルス粒子を用い、種々の細胞での結合活性と結合阻止能を調べた。mAb存在化では約50%の結合阻止が見られたが、この阻止活性はmAbの濃度を上げていっても、通常エンテロウイルスレセプター抗体で観察されている90%以上の阻止能はみられず阻止効果は部分的であった。ウイルス粒子との結合能をより詳細に解析するため、mAbが認識する分子をクローン化した。HeLa細胞由来mRNAを真核細胞発現ベクターに組み込みライブラリーを作製し、mAbによるパニング法でスクリーニングした。塩基配列を解読した結果、本分子は細胞表面にあって補体の活性発現の制御に重要な役割を演じている膜蛋白と同一の塩基配列をもっていた。マウスおよびブタ由来細胞を用い安定な形質転換細胞を作出し、また組換えバキュロウイルスを作製して昆虫細胞で膜蛋白を発現した。現在、これらの細胞とウイルス粒子との結合活性について実験が進行中である。
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