研究概要 |
われわれは以前に,マウス胎仔肝臓(FL)に存在するT前駆細胞(proT)は骨髄幹細胞とは明らかに異なっており,胎仔胸腺(FT)中の最も初期のprogenitorに近いことを明らかにしている.このFLproTは,FT細胞のようにまもなくT細胞になる段階まで分化が進んだ細胞を含まないので,分化誘導の研究には大変都合がよい. FL細胞をdeoxyguanosine処理FTlobeとHOS(high oxygen submersion)共培養して分化誘導する系に,progeitor/precursorが発現するPgp-1,VLA-4,LFA-1,ICAM-1等に対する抗体を加えると,ICAM-1以外の抗体ではほぼ完全にT細胞生成が抑制された.VLA-4抗体に関しては,VCAM-1またはフィブロネクチンとの結合部位に対する2種類の抗体を用いたが,強い抑制は前者のみでみられた.一方,分化の進んだ胸腺中のprecursorからT細胞への分化は,ほとんど影響を受けなかった.これらの結果は,T細胞初期分化においてPgp-1,VLA-4,LFA-1を介する接着またはその接着を介する相互作用が不可欠であること,しかもそのうちの1つを欠いてもT細胞生成は起こらないことを示している. この研究は,もともと胸腺微小環境の構成成分を同定することが非常に困難であり,これを克服する新しい方法として始めたものであるが,上記の結果を得ることができたので,これらの分子のリガンドを発現する細胞からストローマ細胞の同定とその機能の解析を進める予定である.その場合,T系列細胞の増殖分化をFACSで解析することは不可能に近い.われわれは,T系列細胞特異性のある転写因子とチロシンキナーゼの発現を,いろいろの胎齢のFTおよびFLで解析し,発生初期からの発現の時間経過関係を明らかにした.今後はこれらの分子の発現を指標として初期分化における細胞間相互作用の機構を明らかにする予定である.
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