研究概要 |
発がん性重金属化合物は動物や培養細胞に投与するとDNA損傷をもたらすが、その機構は解明されていない.これまでに単離したヒトがん原遺伝子で明らかにした様に、発がん性重金属化合物による活性酸素生成およびDNA損傷が細胞内でも起こるという可能性を裏付けるために、培養細胞および動物を用いて突然変異や発がんにつながる8-ヒドロキシデオキシグアノシン(8-OH-dG)の定量をニッケル化合物について行った.8-OH-dGの定量には電気化学的検出器と連結させたHPLCを用いた.その結果、培養細胞の実験では、Ni3S2および金属ニッケルで処理したHeLa細胞において8-OH-dG量が増加した.一方、動物実験では、ラットに種々のニッケル化合物(緑色NiO,黒色NiO,NiS,ni3S2)および金属ニッケルを経気道的に投与し、肺の8-OH-dG量を定量した.その結果、いずれの場合にも8-OH-dG量は増加していた.したがって、実験動物でも活性酸素種による直接的な酸化的DNA損傷が起こると考えられる.しかし、ニッケル化合物による炎症が間接的な酸化的DNA損傷に寄与している可能性もある.最近我々は、炎症に伴って生成する一酸化窒素(NO)およびスーパーオキシド(O2^-)が反応してペルオキシナイトレート(ONOO^-)を生成し、それによって、8-OH-dG生成がもたらされることを明らかにした.発がん性重金属化合物によるDNA損傷機構についても、直接的あるいは間接的な酸化的DNA損傷のいずれもが重要であることを示した.以上の結果は1986年に我々が提唱した「金属発がんの活性酸素説」がより確かなものになったことを示している.また、発がんを軽減する効果の大きい活性酸素スカベンジャーを検索することにより、がん予防が可能になることを示している.
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