研究概要 |
本年は、ホルマリン浸漬標本における各種微量元素測定法を検討し、グラファイト炉原子吸光法による脳組織のセレン測定法を確立した。 まず、ラットの脳4部位(皮質、視床、線条体、小脳)及び脊髄(頸髄)をホルマリン浸漬し、浸漬1ヵ月群、1年群と、浸漬をしていない対照群の20元素濃度を比較した。測定にはICP質量分析計(Al,As,Cd,Co,Cr,Cu,Fe,Hg,Mg,Mn,Mo,Ni,Pb,Se,V,Zn)およびICP発光分析計(Na,K,P,Ca)を用いた。 その結果、ホルマリン保存による元素の経時的濃度変化は、一部の元素を除き各部位で同様の傾向にあり、元素により減少、安定、増加型があることがわかった。特に減少、安定型元素は各部位でよく一致した。減少型元素はNa,K,P,V,Mg,Zn,As,Mn,Coで、対照群の元素濃度を100%としたホルマリン浸漬1年群の元素濃度は15-60%で、元素ごとに減少の程度が異なっており、K自身の濃度が変化してしまうため、当初考えていたKによる補正は適切でないと考えられた。安定型元素はSe,Cu,Feで、1年群の濃度は対照群の70-125%であった。但し、安定型のうち、頸髄のFeだけは対照群の2倍となり、Feに関しては今後さらに検討が必要である。増加型元素はAl,Pb,Moであった。組織を浸漬していないホルマリン液の元素濃度を、対照群の組織中の濃度と較べると、増加型の元素では、対照群の濃度の10-30%で、減少型の元素では、2%以下であった。また、Pbを除くと増加は比較的一様であり、組織濃度増加はホルマリン液由来の可能性がある。Alの増加はホルマリン液の直接接しない線条体では認められなかったことから、ホルマリン液を介した外部からの汚染の可能性が強い。 グラファイト炉原子吸光法による脳組織のセレン測定法は、これまで困難とされてきたが、Pbをモディファイヤーとし、アッシングの高温化と時間の延長をはかることによって確立された。
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