研究概要 |
昨年度のラットで検討をもとに、保存条件が様々であるヒトのホルマリン試料を測定した時の問題点をまず検討した。保存脳試料(4ヶ月〜17年)中の元素濃度を分析し新鮮試料と比較した結果、ラットでの結果と同様に、Se,Cuはホルマリン保存試料と新鮮試料の差が少なかったが、Feは保存中に増加した可能性が考えられた。Hgはヒト成人では検出され、保存・新鮮試料の差はみられなかった。Mg,Mn,Znは保存試料の方が低値であり、As,Co,Vは、保存試料のばらつきが大きかった。Al,Mo,Pb,Cdは新鮮試料より1桁以上高値となるものがあり、外部からの汚染が考えられた。その結果測定値の評価に際して、Se,Cu,Hgは特に問題はなく、Mg,Mn,Znは、疾患群で高い時には問題なく、Feは注意する必要があると考えられた。 上記の結果を踏まえて、筋萎縮性側索硬化症ALS7例を含む孤発性運動ニューロン疾患(MND)患者9例のホルマリン保存試料の前角・後角の元素濃度を非神経変性疾患のコントロール10例と比較した。また家族性ALS(FALS)1例の新鮮凍結脊髄(前角・後角・側索・後索)、脳(前頭葉皮質・前頭葉白質・小脳)の元素濃度を対象群(脳9例、脊髄4例)と比較した。孤発性MNDでは、脊髄前角のSe、前角と後角のCu,Mg,Znが高値であった。FALSでは、対象群に比べ全測定部位でMnが高値であった。Fe,Zn,Coは脊髄全部位で高値または高値の傾向にあった。一方、Pは脊髄、特に側索・後索で低値であり、変性によるミエリン減少の結果と考えられた。これらの結果は、フリーラジカル発生が病因に関わることを示唆した。また、各元素の化学形態別の測定が必要であることを考えさせた。
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