研究概要 |
中枢神経変性疾患における微量元素の病因的役割を探求するためには、部位別に微量元素の濃度の測定が必要であり、新鮮剖検例が少ないので、ホルマリン浸漬標本が利用可能かの検討も必要である。そのために、まず、ICP質量分析計による微小量試料で高感度に多元素を分析出来る測定法を確立した。次に、その方法を用いてラットの脳及び脊髄の各部位で、ホルマリン浸漬群とそうでない対照群の21元素濃度を測定した結果、ホルマリン保存による元素の結時的濃度変化は、一部の元素を除き各部位で同様の傾向にあり、元素により減少、安定、増加型があることがわかった。保存条件が様々であるヒトのホルマリン試料での検討結果も、ラットでの結果と同様であった。その結果を踏まえて、筋萎縮性側索硬化症(ALS) 7例を含む孤発性運動ニューロン疾患(MND)患者9例のホルマリン保存試料の前角・後角の元素濃度を非神経変性疾患のコントロール10例と比較し、さらに家族性ALS (FALS) 1例の新鮮凍結脊髄と脳の各部位の元素濃度を対象群と比較した。孤発性MNDでは、脊髄前角のSe、前角と後角のCu, Mg, Znが高値であった。FALSでは、対象群に比べ全測定部位でMnが高値であり、Fe, Zn, Coは脊髄全部位で高値または高値の傾向にあった。一方、Pは脊髄、特に側索・後索は低値であり、変性によるミエリン減少の結果と考えられた。高値または高値の傾向にあった元素は、フリーラジカルを発生させたり、逆にフリーラジカル消去系酵素に関連する元素であり、このような病態にフリーラジカルが関わることを示唆した。また、各元素の機能をさらに明確にするために、化学形態別の測定が必要であることを考えさせた。
|